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マンガで学ぶSTEAM教育のススメ。

マンガ大国ニッポンにおいて、最も誇るべきは作品数と多様性にあるといえるでしょう。歴史、スポーツ、SF、自然と生命、心の機微、あらゆることを「マンガから学んだ」という方は多いはず。筆者も無論そのひとり。マンガから得た学び・知識が、人生の礎を築いてくれたことは間違いありません。

「学習マンガ」がひらく、新たな世界の扉

マンガは学びの扉をひらく。

その思いに答えるかのごとく、2015年から「これも学習マンガだ!」なるプロジェクトが日本財団主催のもとで始動しています。これは歴史上の偉人の伝記や科学解説マンガではなく、既存のマンガ作品から「新たな世界を知る」ことができる作品を、マンガに精通した識者が選び、紹介するというもの。スタートから3年間で200作品が選出され、最近では図書館や書店などでも広く活用されるようになりました。

2020年度からは一般社団法人マンガナイトの主催事業となった、このプロジェクト。代表の山内康裕さんにお話を聞きました。

「エンターテインメントとエデュケーションをかけた『エデュテインメント(楽しみながら学ぶこと)』をコンセプトに、学習マンガの普及に努めています。最近では、専門的な知識をマンガに取り込む作品も増えてきました。『はたらく細胞』(清水茜/講談社)では、人体の細胞を擬人化し、そのはたらきを詳しく解説していますし、ジャンプで人気の『Dr.Stone』(原作:稲垣理一郎、作画:Boichi/集英社)は化学物質の組み合わせから火薬や薬を開発したり、TVドラマにもなった『コウノドリ』(鈴ノ木ユウ/講談社)は、産婦人科医の実情やさまざまな病状について詳しく描かれています。

過去には小学校6年生の道徳の授業でマンガを活用したこともあります。国語が苦手な子どもでも、マンガを通してだったら他者の感情や情景を考えられるようになった、という声もありました」(山内)

そんな「これも学習マンガだ!」のセレクトはすばらしく、数十年前の作品でもその輝きは色褪せていません。今回はこのプロジェクトの選出作品から、「STEAMな学び」につながるマンガを(筆者の愛と独断で!)ご紹介します。

01. 『もやしもん』
見えない「菌」の世界を想像する

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もやしもん』(石川雅之/講談社)

言わずと知れたバイオマンガの金字塔。菌が見えるという特殊能力をもつ主人公が通う農業大学を舞台に、酒や発酵食から病原体まで、ありとあらゆる菌が語りかけてきます。コミカルに描かれた菌たちのキャッチフレーズは「かもすぞ(醸す、発酵・腐敗させるの意)」。

この作品、「除菌」という言葉を見かけない日はない今日において改めて意義深さを感じます。目に見えない菌を嫌悪する風潮もあるけれど、一方で人間の体内には100兆を超える微生物が存在し、共に生きている。納豆や味噌や酒、あらゆるおいしさを育んでくれるのもまた菌。ちょっと難しい単語も並びますが、豊かな菌ワールドへの想像力が広がる一冊です。

02. 『動物のお医者さん』
「研究者」という謎の存在に迫る

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動物のお医者さん』(佐々木倫子/白泉社)

「大学の研究室」を描いたバイブルとして、見逃せないのがこの一冊。「懐かしい!」と声を上げる人も多いでしょう。生物学(正しくは獣医学)の知識が増えるかどうかはさておき、この奇人変人が行き交う研究室を描いた群像劇、「研究者」という謎めいた存在に、さらに興味が湧くこと間違いなし。ちなみに筆者の友人は小学生時代に出会ったこのマンガの影響で理系研究者に憧れ(なぜ)、細胞研究の道を目指すようになりました。将来なりたい職業との運命的な出会いがあるも、マンガの醍醐味です。

03. 『リトル・フォレスト』
食育にも!自然の瑞々しさをめいっぱい浴びる

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リトル・フォレスト』(五十嵐大介/講談社)

生命の神秘を描かせたら右に出る者はいない。そう断言できる稀有なマンガ家・五十嵐大介が、自身の東北暮らしの経験をもとに描いた「ローカル・食マンガ」。ゆっくりと時間が流れる自然豊かな田舎で、夏にはしゅわっと音が聞こえそうな甘酒サワー、何種類もの野菜で煮込む母仕込みのウスターソース、長くて重たい冬にはじっくりこねるひっつみ鍋……。そのどれもが、まるで森の音や風が体にしみこむかのごとく、瑞々しい自然の恵みで満ちています。卓越した自然への観察眼と画力で魅せる五十嵐作品は傑作揃い。『海獣の子供』『ディザインズ』『魔女』など全作において、この世界のあらゆる生命の声が響いてきます。

04. 『イティハーサ』
神話を体感する、魂の哲学

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イティハーサ』(水樹和桂子/早川書房)

マンガ界における隠れた大傑作。本作品を選出する「これも学習マンガだ!」の慧眼にも、脱帽です。古代日本を舞台に「目に見える神々」と「目に見えぬ神々」と、その間でさまよう人間たちのドラマを描き、生涯心に刻まれる哲学ワードが連発。透き通るような筆致と言葉の数々を読み進めるうち、まるで自分が聖地の中にいるような神秘の感覚に包まれます。『イティハーサ』に通底するのは、神々も、人間も、迷いの中にあるということ。彼らが語りかける大いなる問いは、生命、言葉、科学、領域を超えて人生のあらゆる学びにつながることでしょう。

05. 『プラネテス』
宇宙の日常に近づく近未来

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プラネテス』(幸村誠/講談社)

『ドラえもん』から『攻殻機動隊』まで、日本の生んだSF作品は科学技術のシーンに大きな影響を与えてきました。いま科学者やエンジニアとして活躍する人々の多くは、それぞれ愛読してきたSF作品があるといいます。20世紀のSFが彼らに夢とロマンを与えてきたのだとすれば、これからのSFはより身近でリアルな近未来像が思考を広げるかもしれない。『プラネテス』も約50年後の宇宙を舞台とするSFですが、その設定は現実的。宇宙飛行が今よりもっと簡単になった時代、主人公は宇宙空間を漂うゴミ(スペースデブリ)を回収し、重力変動による体調不良に悩むなど、「宇宙の日常」が描かれています。同時に巨大な宇宙船へのロマンも描く。これぞ21世紀の宇宙SFといえるでしょう。

06. 『ムーたち』
プログラミング思考に役立つ(かもしれない)

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ムーたち』(榎本俊二/講談社)

「想像だけで国内旅行をしたら?」「ボクがボクを見ている」「なにも考えない状態でいるのは1分持たない?」……。そんな問いを出し合う小学生・ムー夫と家族の、シュールな哲学マンガ。一見難しそうに思えても、なんだか分かった気になってしまう。そんな狐につままれたような奇妙さをマンガで体感できます。プログラミング的な思考とは「ものごとを実行する際にさまざまな順序やパターンを考えること」だと以前の記事で聞きましたが、ムー夫たちのロジカルな哲学思考に触れるうちに、読者にも立派な思考回路が育つかもしれません。

07. 『イムリ』
文明とは何かを鋭く問う

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イムリ』(三宅乱丈/KADOKAWA)/Amazonで購入する

2つの惑星を舞台に、テクノロジーの発達した文明で人を支配する民族カーマ、古代からの知恵と呪術を守り続ける民族イムリ、そして奴隷となった民族イコルの対立を描く壮大な大河ロマン。この設定だけでも一晩語れそうですが、人類が築いた文明とはいかなるものなのか、人が技術と力を持つとは何かを真に問いかける哲学的作品。ウイルスや温暖化など、さらなる環境変動が迫る今こそ、子どもの頃から考えたい人類の問いに満ちています。

08. 『ちはやふる』
日本の古典が蘇る

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ちはやふる』(末次由紀/講談社)

STEAM教育のAは「ART」の頭文字ですが、ここからは日本の芸術・文化を学べるマンガをご紹介。映画化もされ大ヒットを飛ばす百人一首マンガ『ちはやふる』は、やはり必読。秒速で札を奪い合う「競技かるた」という聞きなれないジャンルを知ると同時に、後半に近づくにつれて高まる主人公たちの熱気と情熱に、毎回震えと号泣必至です。さらに本作の魅力は、百人一首という千年続く文化を「古典」に還元せず、主人公たちの学びを通して読者に瑞々しい出会いを与えてくれること。作者の「学び」に対する真摯な姿勢を、真正面から受け取れる作品です。

09. 『大奥』
江戸の美意識とジェンダーを同時に学ぶ

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大奥』(よしながふみ/白泉社)

STEAM教育からは若干逸れますが、「日本文化の学び」という視点から読みたいのがこちら。TVドラマ・映画版も有名ですが、原作の美しい筆致はため息ものです。徳川幕府の権力者たちが全員女性の「男女逆転大奥」という設定で、江戸の歴史を描く斬新な発想力はまさに衝撃。本作で注目すべきは、洗練された線で描かれる江戸の多彩な装束や文化の様子。日本で最も文化が花開いた時代の、豊かな美意識を感じ取れます。と同時に、「子を産む存在である女性がトップに立つとは?」「男性がマイノリティに置かれるとは?」などジェンダー観を考えさせられる要素も。また作中のフィクションである伝染病・赤面疱瘡(あかづらほうそう)の撲滅に登場人物たちが奔走する様子は、コロナという時代を迎えた今、読み返すと感慨深いです。

10. 『BASARA』
生きることと日本文化の豊かさを知る

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BASARA』(田村由美/小学館)

一度すべての文明が滅び、王族が支配する封建社会に逆戻りした日本で、主人公の更紗が全国各地の仲間を集め、革命を目指す大河ロマン。本作は筆者自身の座右の書でもあり、作品から得た格言は数え切れません。と同時に、日本各地の風土や文化、歴史も学びました。熊野の森が育む信仰、沖縄の政治観、東北の堅牢さ…。浅葱や蘇芳など日本古来の美しい色の名前を教えてくれたのも『BASARA』です。多くの読者が涙した名シーン、「己の道は己で決めよ」という言葉は、いまの社会や政治を考える上でも何度でも反芻したいメッセージです。

STEAMなマンガ10選、いかがだったでしょうか。「STEAM教育」というと、アメリカ由来の先端的教育がイメージされるかもしれませんが、こうしたマンガを並べてみると日本の中にもたくさんの豊かな学びがあることに気付かされます。「これも学習マンガだ!」には他にも素晴らしい作品が多数あるので、子どもと一緒に楽しんでみてくださいね。

塚田有那(ARINA TSUKADA)

編集者、キュレーター。世界のアートサイエンスを伝えるメディア「Bound Baw」編集長。一般社団法人Whole Universe代表理事。2010年、サイエンスと異分野をつなぐプロジェクト「SYNAPSE」を若手研究者と共に始動。16年より、JST/RISTEX「人と情報のエコシステム」のメディア戦略を担当。近著に『ART SCIENCE is. アートサイエンスが導く世界の変容』(ビー・エヌ・エヌ新社)、共著に『情報環世界 - 身体とAIの間であそぶガイドブック』(NTT出版)がある。大阪芸術大学アートサイエンス学科非常勤講師。
http://boundbaw.com/

Text : Arina Tsukada
Illustration : Lee Izumida

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