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"遊び"から始める、楽しい食育

子どもたちが食に興味を持ち、大切さを実感するには、栄養価の高いものを食べさせるだけではなく、「楽しい」と思えるようなさまざまな体験をさせてあげましょう。楽しく遊びながら子どもに食の大切さを知ってもらう方法をご紹介します。

遊びながら食を知ろう

「食育」とは、平成17 年に制定された食育基本法によると

"生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきもの"
"さまざまな体験を通じて『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てること"

と定義されています。これだけ読むと食育をするのは、とても難しいことのように感じてしまい、ついつい子どもたちにも勉強的アプローチをしがちです。しかし子どもたちは、いくら大人が「これは栄養があるから食べなさい」と言ったところで自分がおいしいと感じないものは積極的には食べないのと同じように、一度つまらないと感じてしまうとどんなに大切なことでも興味を持たなくなってしまいます。

食は生きる力であり、心と体の健康を維持するために最も基本となるものです。栄養の偏りや不規則な食事による肥満、栄養失調、はたまた外国からの食料輸入に依存する問題など、食を取り巻くさまざまな問題が浮上している昨今、子どもには「食べもののことなんてつまらない」と終わりにするのではなく、もっと興味を持ってもらう必要があります。なので、今回は頭ごなしに大人の考えや難しいことを押し付けるのではなく、楽しく遊びながら子どもに食の大切さを知ってもらう方法を探っていきましょう。

遊びながら食を学ぶツールとして、今最も教育現場で使われているのは「食育すごろく」です。各自治体や農政局が提供しているすごろくは、食材の栄養素を学べるもの、規則正しい食生活を送ることを促すもの、食材の旬や地元の特産物を教えるものなど種類は実にさまざま。友だちや家族と一緒に遊ぶだけで食への知識が自然に身につきます。またすごろくは、誰が早くゴールするか競う遊びなのでゲーム性が高く、子どもが夢中になってくれるのも魅力。「子どもと家で何しよう?」と、子どもとの過ごし方を悩んでいる際の解決法としても有効です。

「食育すぐろく」について松本大学人間健康学部の石澤美代子氏が、小学校6年生を対象にアンケートを行ったところ、家庭科の授業にてすごろくを行ったことにより、複数の児童が「1日3食食べるようにし欠食しなくなった」、「今までより料理を手伝うようになった」「家族と食事について話すことが増えた」「今までより栄養や食事のことを気にすることになった」と回答しました。「食育すごろく」をきっかけに食意識が向上したり、食について家族とのコミュニケーションが増えたりと、子どもたちが食に興味を持ってくれることが明らかになっています。 インターネットで「食育すごろく」を検索すると、さまざまな自治体がホームページでデータを提供しているので、それをプリントアウトするだけで遊ぶことができます。また、子どもと一緒にオリジナルのすごろくを作って遊ぶのもおすすめです。

次は、「食育すぐろく」以外に、日々の暮らしの中で手軽に取り入れられる遊びをご紹介します。

食育は日々の暮らしに取り入れて

普段の暮らしや遊びに食のエッセンスを散りばめれば、気負うことなく食育を実践できます。

先ほどご紹介したすごろくのように時間と場所をとって遊ぶものでなくても、日々の暮らしの中で手軽に取り入れられる遊びはたくさんあります。

例えば、食後のデザートにりんごを出した際に、「りんごを食べるとどんな音がするかな? たくさん思いついたほうが勝ちね!」と、食べる時、料理する時の擬音を親子で出し合うだけでも立派な遊びに。今体験していることを音にして表現することで、言語感覚が研ぎ澄まされ、五感を刺激します。逆に、「食べるとしゃきしゃき、さくさくと音がする赤い果物は何でしょう?」と、なぞなぞ形式にしても。食べる際に音を出すのは行儀が良くないこととされていますが、家では思いっきり食べものから出る音に耳をすませる日があってもいいでしょう。

散歩中には、食べものクイズを。「あの赤信号と同じ色をした丸い食べものは何だ?」「あの車と同じ色をした野菜は何だ?」などと問題を出してみましょう。登園中にもできるので、遊ぶ時間を設けてあげられない時にもおすすめです。慣れてきたら、子どもに問題を出してもらってもいいでしょう。「あの赤信号と同じ色をした食べものをより多く挙げられたほうが勝ち」など、勝ち負けを争うこともできます。

「さかな、なす、すいか……」といったように食材に限った、食べものしりとりもおすすめです。言葉につまると、子どもは必死に考えた想像上のおかしな食べものの名前を登場させたりするので、大盛り上がりします。また、例えば「すいか」と言う際にはすいかにかじりつく真似をするなど、動きをつけながらしりとりをするとより楽しくなります。食べものの名前があまり思いつかない場合は「なすは紫、黄色はパイナップル」など言葉を組み合わせて、文章でしりとりをしてもいいでしょう。

定番のおままごとをさらに発展させる遊びも。スーパーのチラシや雑誌などの食材の写真を切り抜きます。それを「お店のように並べてみて」と指示をします。これによって、魚、肉、野菜などの分類分けがまずできるようになります。また一口に肉と言ってもさまざまな見た目や種類があることを学べます。次に「ハンバーグを作るのでこの中からお買い物をしてきて」と指示します。最初は分からなくても、繰り返し遊ぶにつれて挽き肉や玉ねぎを選べるようになり、普段食べている大好きなおかずがどんな食材を組み合わせて出来ているのか自然と覚えることができます。必ず、パスタや鶏の唐揚げなど子どもの好きなものをテーマにして、興味を持たせることを忘れずに

おままごとであっても、料理を作る準備を経験させることで、子どもに食について考えるきっかけを与えられるのです。十文字学園女子大学人間生活学部の池田まさみ教授によると、自分の好きなおかずの食材を用意し、どんなプロセスを経て出来上がるのかを想像させることで、論理的に考える力がつくそう。普段の買い物でも、必要な食材を一緒にそろえてもらうといいかもしれませんね。

絵本の力で食事をもっと楽しく

子どもに食に興味を持ってもらいたいなら、記憶に鮮烈に残る、「おいしそうな本」を読み聞かせるのも有効です。

「食育すごろく」や「食べものしりとり」などのように参加型のゲームで食に興味を持たせるほかに、食をテーマにした絵本を読み聞かせて、物語の世界から食育へアプローチする方法もあります。

絵本の読み聞かせは、食育だけでなくさまざまな効果があるとされています。食育のテーマからは少し離れてしまいますが、明治大学文学部の齋藤孝教授によると、絵本の読み聞かせは「何より親子のコミュニケーションをスムーズにする」そう。「親と子の間に絵本があることで、距離がぐっと縮まって会話のやりとりが生まれる。子どもは絵本で感じたことを伝えたい、という気持ちを強くしていき、他者と気持ちを分かち合うことができるようになる」としています。

コミュニケーション能力は、今の時代を生きぬくためにとても大切な力です。人の気持ちが分かる、自分の気持ちを上手に伝えられる、それだけで子どもはより生きやすくなります。自分や他者の感情を知覚し、自分の感情をコントロールする力は「EQ」と言われ、教育現場で注目されています。

物語の世界を楽しみながら、自然と食に興味を持ってもらいたいなら、食をテーマにした読み聞かせる絵本を選ぶ際に一番気をつけてほしいのは、食べる楽しみが伝わるかどうか、つまり「おいしそうな本」かということ。残さず毎日食べてほしいからと、あまりごはんを食べない主人公が鬼に怒られる話や、好き嫌いをなくすための教訓めいた話はなるべく避けるのがベターです。

絵本を読み聞かせる目的はまず、食へ関心を持ってもらうこと。子どもにこの絵本はおもしろいと思ってもらうことから始めましょう。まずはじめは、料理が出来上がっていく工程をおいしそうな絵で紹介する本や、前述の「食べものしりとり」のように言葉遊びできるようなものがおすすめです。

編集部おすすめの食育絵本

ミルクジャポン編集部おすすめの絵本を紹介します。

『あっちゃんあがつく たべものあいうえお』
原案:みねよう 作:さいとう しのぶ (リーブル)

「あっちゃん あがつく あいすくりーむ」「いっちゃん いがつく いちごじゃむ」といったように、五十音順にリズミカルな言葉で食べものをなんと69個も紹介する、軽快な絵本です。アイスクリームたちが歌って踊る様子に、目が釘づけになるはず。

『いろいろごはん』作:山岡ひかる (くもん出版)

白いごはんが「じゅっじゅっ」と炒められてチャーハンになったり、さらさらのお茶漬けになったりと、いろんなごはんに変身します。「はっふはふ」や「ほっこほこ」など擬音が数多く登場するので、子どもと一緒に言葉遊びを楽しめます。

『お月さまってどんなあじ?』
絵と文:マイケル・グレイニエツ 訳:いずみちほこ (セーラー出版)

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「お月さまってどんなあじなんだろう」と疑問に思った動物たち。月をかじってみたいゆえのけなげな行動に、子どもたちも感情移入するはず。この絵本に出てくるろう物たちのように、食べられないものの味を想像すると、想像力が豊かに。

『サンドイッチ サンドイッチ』
作:小西英子 (福音館書店)

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サンドイッチを作っていく過程をみずみずしいタッチで描いた一冊。いつものサンドイッチがどのように作られているのかを知ることで、子どものあたり前をあたり前に終わらせない良い機会に。

『パパ・カレー』
武田美穂 (ほるぷ出版)

「ごろごろジュー」「牛肉角切りゴロンゴロン」といったように、調理の際に出る音を再現しているので、読み聞かせにぴったり。子どもの五感を刺激します。カレーはどのようにして作られるのか知識を得ることで、食への興味が広がっていきます。

『おやおや、おやさい』
文:石津ちひろ 絵:山村浩二 (福音館書店)

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フレッシュな野菜たちがマラソン大会に出場。にんにくは筋肉ムキムキだったり、かぼちゃは重そうだったり。野菜の特徴を生かしたキャラクターと物語なので、野菜たちに自然と親近感を覚えます。苦手野菜も好きになってくれるかもしれません。

『14 ひきのかぼちゃ』
いわむら かずお (童心社)

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季節の移り変わりと収穫の喜びを描いた一冊。かぼちゃの発芽から開花、そして実がなるまでが、丁寧に描かれています。収穫したかぼちゃをパイやスープ、煮物にして味わう様子からは、家族みんなで食卓を囲むことの喜びが伝わってきます。

『やさいやさん』
作:tupera tupera (学研プラス)

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土の中に隠れているのは誰かな? 「すっぽーん」の掛け声とともにページをめくると登場するのは、にんじんさんやだいこんさん。ダイナミックな動きで子どもが夢中になるしかけ絵本。色彩豊かなイラストに目を奪われます。

『やさいの おなか』
作・絵:きうち かつ (福音館書店)

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野菜を切ったらどんな種が入っていて、どんな模様をしているのかが、分かりやすく描かれています。食というとも味に意識がいきがちですが、食べものの見た目を知るのも食育にとても大切です。興味をもったら実際に切って見せてあげても。

Text: Marie Takada
Illustration: Asami Hattori

参考文献:
石澤美代子「食育すごろくゲーム教材の開発とその有効性」
JTB「おやこでクリエイティブクッキング」「kodomoe」2016年8月号(白泉社)


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