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ユニークな子どもたちが集う場、“異才”を発掘する「ROCKETプロジェクト」

学校や塾に習いごと、毎日忙しい子どもたちにとって自分らしく生きられる「学び」とはどんなものなのでしょうか?今回は、ユニークな子どもたちの個性を活かす「異才発掘プロジェクト ROCKET」を推進する、東京大学の中邑賢龍先生にお話を伺います。

中邑賢龍 (なかむら・けんりゅう)
1956 年、山口県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野教授。既存の学校になじみにくい個性豊かな子どもたちを集め、その個性を伸ばすことを目的とした「異才発掘プロジェクトROCKET」を2014 年から始動するなど、ICT を活用した社会問題を解決するための実践研究を推進している。

学校に行かないのは、悪いこと?

ゲームやスマホがもたらすさまざまな刺激、核家族化、画一化した競争社会など、現代は子育てがとても難しい時代です。普通に育てているのにどうしてうまくいかないのか悩んでいる人も多いと思います。特に子どもが不登校になると、家庭での生活リズムが一変し、親の仕事にも支障が生じます。多くの親は子どもを責め立ててなんとか登校させようとしますが、中には心理的不調を訴え、暴力的な行動で激しい抵抗を示す子どももいます。それでも、決して子どもを責めないでください。彼らにとっては、そこに学校があるから不登校という問題が生じているだけです。その子どもの個性や認知特性が、一斉指導を行う今の学校のスタイルに向いてないと考えてもいいでしょう。大切なことは学校に行くか行かないかよりも、その子どもに合った学びの場を提供できるかどうかだと思います。

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今、社会では創造的でイノベーティブな人材が求められています。その一方で、未だ子どもの教育は従来からの協調性のあるオールマイティな人材養成から抜け出せていません。早くから進学塾に通わせ、スポーツ教室で協調性を身につけさせ、余裕があればロボット教室にも通ってSTEM(Science,Technology, Engineering and Mathematics)教育を行うのが現代の理想の子育てになっている気がします。

不登校になっている子どもは現在、全国に12 万5千人近くいます。私は彼らが努力しない心の弱いダメな子どもであるとは思いません。親や学校の圧力に屈せずに学校に行きたくないという主張ができるのですから。どんなに親や教師から強く言われても、空気を読まず、好きなことをして生き続けているユニークな子どもたちこそ、社会にイノベーションを起こす人材になるのではと私は考えています。空気の読める人材は会議の場で流れを変える発言をすることは避けます。人の役に立ちたいと考える人間は多くの人の考える範囲の中でしか創造性を発揮できません。

社会のルール遵守が厳格化し効率化が追求されると、規則に従わない、また、時間内に物事を処理できない人は学校や会社組織から排除される傾向が強まります。空気を読まない、役に立たないことを続ける子どもたちは社会に適応できないと考え、幼少期から矯正される時代に入っています。中には発達障害と診断を受ける子どももいます。個性豊かなユニークな子どもたちが潰される社会にはストップをかけなければいけません。

「異才」ってなんだろう?

私の研究室では、社会不適応をきたした成人の人たちと一緒に働いています。彼らは才能豊かな人たちですが、子どもの頃に認められなかった、排除されたという経験から心理的な不安定さを抱えて苦しんでいます。彼らが子どもの頃、もっと誰かに認められていたらと考えたことが「異才発掘プロジェクトROCKET」を始めたきっかけです。ROCKET とは、「Room Of Children with Kokorozashi and Extra-ordinary Talents」の頭文字をとったもので、ちょっと変わった才能と志のある子どもたちが集える場所です。「我々は君たちを見捨てない、唯一あるのは君たちが我々を見限る時である」というポリシーを持って、学校になじめない子どもたちを全国から集め、2014年にスタートしました。

異才ギフテッド、なんだか不思議な言葉です。オールマイティで一流校に行ってなくてもこの言葉があれば救われるような気がします。ROCKET を開始した当初は、飛び級して一流校に入る子どもたちのためのプロジェクトと誤解されましたが、これは高校や大学進学に関与するプロジェクトではありません。では、ここで言う「異才」とは何を指すのでしょうか。

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「どうやって異才を見つけるのですか?」とよく尋ねられます。しかし、我々が異才となる子どもを見つけだせるわけではありません。異才は子ども自身が好きなことを続けた結果、周囲が評価して勝手に名付けるものであり、いまROCKET に参加している子どもたちが将来異才になるかどうかもわからないし、それを期待すべきではないと考えています。異才とは、人の期待に応えて頑張るのではなく、周囲のことをちっとも気にせず前に進んでいく人のような気がしています。誰に何を言われようと好きなことを続けるユニークな子どもを探しているのがROCKET であり、ここに集まった子どもたちがその特性を潰されずに大人になった時にこそ、異才が活躍するイノベーティブな社会が到来するに違いありません。

ROCKET は学校ではありません。自由な新しいかたちの学びの場で、不登校の子どもたちが、学校長の承諾を得て参加しています。子どもたちの得意とする分野の教育はあえて行わず、それを自分で学んでいけるようなサポートとこれから1人で生き抜くための教育を行っています。

ROCKETの教育の指針となるポイント

ここからは、ROCKETの教育の指針となる、いくつかのポイントをご紹介します。

1. リアリティを追求する

最近の子どもは万能感にあふれています。インターネットで知識が満たされた子どもは、親が天才ではないかと錯覚するに十分です。しかし、突っ込んで話していくと彼らの知識がリアリティのないものであることに気づきます。現実と結びつかず応用できないまま知識をたくさん吸収した子どもたちをやみくもに褒めて育てるのは危険です。今後訪れるAI(人工知能)社会において、真っ先に駆逐される危険性を感じます。知識を調べて覚えることより、知識はどのようにして生みだせるかを教える必要があります。

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(写真:明治時代からある東大の研究棟の 一角にあるROCKET の拠点教室)

そこで、子どもの興味関心があることを専門家が教えるようなことはROCKETでは行っていません。なぜなら学びは自分でするものだからです。その代わりROCKET の子どもたちは申請制度を利用できます。「もっと高性能のパソコンが欲しい」「専門家に会いに行く旅費を出してほしい」などの申請があれば、その都度彼らの申請書を審査して物品や機会を提供しています。我々が教えていく必要があることは学び方や生き方にあると考えているのです。

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(写真:子どもたちから届く、自身のやりたいことを綴った申請書)

ROCKET のある日の社会の授業を紹介しましょう。朝、部屋に集まった子どもたちはスマホを没収され、紙と鉛筆、1日の食費・交通費の1000円を渡されます。その後、「日本の鳥居の種類を調べたいから、夕方まで各地の鳥居を探してスケッチしておいで」とだけ告げられ、都内に散っていきました。しかし、地図なしに鳥居を探すのはなかなか大変です。夕方、鳥居のスケッチを終えた子どもたちがヘトヘトになって帰ってきました。それでも全員のスケッチを集めると数十枚の鳥居のスケッチが机の上に並びます。それらを分類していくと、直線型の鳥居(神明型)と反り返ってプレートがついた鳥居(明神型)に分かれることに気づきます。「わかった!2種類だ!」と声を上げる子どもたち。でもそこで彼らに追い打ちをかけるのがROCKET 流。「これで分類ができたと思うのは間違いだ! 北海道から九州・沖縄までくまなく鳥居を調べて回って初めてわかる。それを実際に歩いて確かめるのが研究であり、君たちのやっていることは人の知識の確認作業にすぎない」と伝えます。インターネットがあれば1分以内にわかる答えをわざわざ時間をかけてやるのはなぜかと問われれば、「子どもに知識の生みだし方を教えたいから」と答えるだけです。この授業で教えたかったのは、鳥居の種類ではなく、知識を生みだすことの大変さだということに皆さんにも気づいていただければと思います。

2. 無計画・無目的な学び

「教科書なんか勉強してどうするの?」「時間や規則で縛りすぎる」と学校を批判する子に、普段の学校と同じような教育はなじみません。それならばと教科書は使わず活動を中心に、時間割や計画はできるだけないかたちでROCKET のプログラムは進行します。

子どもたちとよく旅に出ます。最近の学校の修学旅行は子どもたち自らが計画を立てて実施されるものも多いようですが、ROCKETでは無目的で無計画な旅も実施されます。何故なら、予定のある旅に驚きや発見はないと考えるからです。幸いにもROCKET は少人数であり、不登校の子どもたちは時間に縛られていないというメリットもあります。

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7月に実施した修学旅行は東京駅と宮崎駅という2つの集合場所が設定されました。2地点に各4名ずつの子どもたちが集まり、そこで初めて目的地が知らされます。「2日後の15 時にJR の各駅停車で潮岬に集合」と。潮岬とは、和歌山県にある本州最南端の岬のことです。情報機器は没収され、1日に使えるお金は食費・宿泊費込みで8000円、旅費は3日間で1 万5000円以内という制限付きの旅です。乗る列車も決まっていなければ宿泊地も未定、駅で寝ても構いません。学校に行ってない子どもたちのほとんどは潮岬がどこにあるかわかりませんが、スタッフは付き添うだけで一切何も言いません。書店に入り、人に聞き、ようやく潮岬が紀伊半島の先端であることを理解した子どもたちは駅の窓口で最寄駅の串本までの切符を買い、やっとスタートとなりました。修学旅行のように立ち寄って見学する場所もなく、ゲームもなく、本もなく、ただひたすら列車に乗り続け、潮岬を目指す旅です。何の意味があるかと聞かれれば何もない。目的や役立つことがなければ何もしない現代社会へのアンチテーゼでもあります。

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(写真:無計画・無目的の旅が始 まり、宮崎駅から潮岬を目指す子ども)

宮崎から東に向かうチームは13 時に集合したにもかかわらず15 時前まで列車がないことに愕然とし、結局、1日目は深夜までかかっても九州を抜け出すことはできませんでした。2日目は大阪までたどり着いたものの梅田の安いホテルは満室で、お金を持たない子どもたちを泊めてくれるホテルはありません。結局大阪の街を3時間ほどさまよい、ようやくベッドを見つけることができました。寝る場所のない不安を抱えながらやっとたどり着いたホテルのベッドで、家のありがたみを痛感したに違いありません。潮岬にたどり着き、合流した8名はお互いの旅を振り返り、東京からのチームの方が距離も短く、ゆとりがあったことに気づきます。実は宮崎から串本までの距離は1144.3 ㎞、東京からの距離638.7㎞の約2倍もあります。宮崎から来た子どもたちは自分たちの旅の大変さを訴えましたが、東京からのチームはのんびりと楽しかったようです。彼らに「何で潮岬を選んだかわかるか?」と尋ねてみましたが、そのわけに気づいた子どもはいませんでした。実は直線距離では、潮岬から東京と宮崎はほぼ等距離にあります。都市間の心理的距離は交通機関によって決まることに気づくのが今回の旅の隠された目的でもありました。

3. ユニークさを楽しむ

ユニークな子どもたちと付き合うのは大変でしょうとよく言われます。確かに、常識に合わせようとすると心配になり、ほとんどの人はイライラするでしょう。集団で一斉に活動していると彼らを同じペースで参加させることは大変です。でも一斉指導を原則としてしないROCKETであれば個々が好きな活動をやっていても全く気になりません。むしろ個々の突き抜けた活動をこちらも楽しんでいるのですから。そんな彼らでも本当に生きるために必要だと思えば、彼らの方から勝手に集団の授業に入ってきます。

また、教科書を開いて勉強させることも大変です。それならば教科書を使わなければいいだけです。ROCKETの教育の基本は普段の子どもたちの活動です。調理したり、工作したり、移動したりする中で教科に関連した大切なことをちょっとだけインプットしておけば、彼らは知識の大切さに気づいて自然と吸収していきます。例えば、異なる値段のリンゴを食べながら、「なんでこんなに値段が違うのかな?」と問いかけておくだけで、産地の規模、輸送費、貿易、為替などの話題につながっていきます。我々が合わせるのではなく、彼らのスタイルに合わせた場所を作れば、ユニークさを発揮する彼らを安心して、また、楽しみながら見守ることができます。

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例えば、ROCKET にはキノコが大好きな中学生H君がいます。彼は学校でキノコの話しかしないので浮いています。でも私は彼の話が大好きです。知識だけでなく採集経験も豊富で話は尽きません。「日本にもトリュフやポルチーニがあるよ。今度採集してくるから」と言って、次週には素晴らしいトリュフが籠盛りで届くのですから驚きです。都内のイタリアンやフレンチ料理のシェフが集まった日はさらに話が盛り上がりました。

4. 自分で責任を取れ

ROCKETでは子どもに好きなことを自由にさせています。多くの親は進学して会社に就職することが大切だと考えているので、「そんなことをさせて誰が責任を取るのですか!」と言う声も聞こえてきます。しかし、子どもの人生は親の人生ではありません。自分の生き方に責任を取るようにと子どもたちには日々言い聞かせています。集団に帰属して組織のせいにするか、個人で自由に生きて自分で責任を取るかの選択にすぎません。私は就職できなくても自分で起業してお金を稼げばいいと思っています。

こんなROCKETの活動を続けていると、我々の計画のなさに不安を感じ、マニュアルなしで生活するのが苦手な子どもたちは学校の大切さに気づくのか、集団生活に帰っていきます(つまり、学校に通うようになります)。その一方で、ROCKET の学びが合っている子どもたちは学校に行かない後ろめたさを感じなくなり、その自由な時間を活かしてたくましく進み始めます。どちらが良いわけではありません。どちらも自分に合った道を見つけたといえます。

子どものためのアカデミック・リゾート

学校と学びのスタイルが合わず不適応を起こした子どもたちは病院に連れていかれ、中には薬を処方される子どももいます。またソーシャルスキルを学ぶ訓練を受ける子どももいます。本来ならば何もせずに済んだ子どもたちが、集団に入れないばかりに、その中でその子らしさを失っていくのはとても悲しいことです。

心が傷ついた子どもたちは病院しか行き場所がないのでしょうか?私は今、そんな子どもたちの心を癒し、自信を取り戻すリゾート施設を構想しています。リゾート施設に向かうアプローチには、若い人たちが営むパン屋、家具屋、花屋、クラシックカーガレージ、ソフトハウスなどが並びます。そこを歩いているとお店の若いお兄さんやお姉さんが「ちょっと手伝ってよ」と声を掛けてくれます。中には夕方まで手伝って「助かったよ、明日もよろしく」と言われ、お駄賃をもらって帰る子どももいるでしょう。目的のワークショップやセミナーに出られなくても偶然出会った若い人の手伝いを楽しみ、学べる場所です。このリゾートに集まるのは変なことに興味のある子どもばかりで、受験勉強に明け暮れている子どもにすれば何も役立たない場所として違和感を感じるでしょう。でもAI時代に必要な力は、好きなことがあり自分で楽しむことができることです。その力がイノベーションを生んでいくと思います。ユニークな子どもたちは堂々と遊びや趣味のエリートを目指してほしいと思います。

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〈アカデミックリゾート構想イラスト。中邑先生を中心に構想が進むリゾートは、子どもたちが 自分の好きなことに全力投球できる理想の学びの場。)

中邑賢龍先生がオススメする「学びの本」

ここからは、中邑先生がおすすめする本を3冊ご紹介します。

『育てにくい子は、挑発して伸ばす』
著:中邑賢龍(文藝春秋)

「ユニークな子どもは褒めるだけではだめ。挑発されても立ち向かってくる中に異才の芽を発見できる」をテーマとした中邑先生の著書。親向けに書かれているが、理解し合えない人間関係に悩む大人にもオススメ。

『異才、発見! ――枠を飛び出す子どもたち』 
著:伊藤史織(岩波新書)

異才発掘プロジェクトROCKETに密 着取材。バリエーション豊かなプロ ジェクトを紹介しながら、ユニークさ を歓迎する教育のあるべき姿を考察。 「著者の子育て体験を交え、現在の教育の課題を示している」(中邑先生)

『諦める力〈勝てないのは努力が 足りないからじゃない〉』
著:為末大(プレジデント社)

オリンピック選手の為末大が、競技生 活を通して見出したメッセージを綴っ た一冊。「アスリートとしての経験から、 自分の苦手なところで足踏みするより も早く諦めて得意な分野で自分を伸ば す力の必要性を訴えている」(中邑先生)

Text: Kenryu Nakamura
Edit: Arina Tsukada
Illustration: Tomoko Fujii

※この記事はMilK JAPON WEBの2017年の連載を再編集したものです。

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